分散型台帳技術(DLT)

2019年5月2日

アクチュアリー業務を行っていく上でモデルの使用は、ほぼあらゆる課題の計数的な解決に必須になっています。また、諸外国の内部モデルの規定などがソルベンシー要件の軽減につかわれるようなこともあり、モデリングは法令上も一層に重要なトピックになっている。当社では、このような観点から海外のモデリングに関する文献を翻訳し読者の皆様に引用して提供します。以下、「」内は引用

本記事は、アメリカアクチュアリー会(SOA)の雑誌The Actuaryに記載されている記事「Super Secure: Distributed ledger technology in life and health insurance」の翻訳である。この記事は5回に分けての配信予定であり、その第1回である今回は、「DLT 101: AN INTRODUCTION」の1節について配信する。

 

「近年、保険業界は再び新たなる課題に直面している。その理由は競争の激化、マージンの圧迫、規制の増加、革新的技術と急速な顧客ニーズの変化から来ている。それに応じて、保険会社は活発に業務効率、コスト削減、顧客体験の改善を進めていく新たな方法を模索している。将来を見据えた生命保険(健康保険)会社は、活発にIoT(the internet of things )とビックデータを組み合わせた新興技術である、AIやロボットによる自動化技術を取り入れようとしている一方で、課題の解決に分散型台帳技術(DLT)やブロックチェーンが噂になり始めている。

 

DLT 101: 初めに

 

分散型台帳は、不変的に点在した取引台帳(ledger)に記録を集合的に維持していく手法である。現状のシステムとは異なり、分散型台帳は信用を勝ち取り維持するために銀行などの仲介者に頼らない。代わりに、取引台帳が点在している、あるいは多くの異なる集団の間で共有されている。分散型台帳内の参加者は、公的にもしくは特定の集団に対して公開することが出来る。

 

分散型台帳技術では、取引が一般的に3つの主なステップに分けられる。

1. 特定の当事者間で、金銭、医療記録、顧客情報、またはデジタル的に記述可能なものを交換する。
2. システム内のすべての参加者は、その取引が正当であるか決めるために事前に定められた規則を用いる。
3. 参加者は取引を正当化すると、新たなブロックを作り、鎖のように順次追加していく。

一度取引台帳上に情報が追加されると、決して消去または変更することは出来ない。したがって、DLTでは、すべての取引が検証可能な記録として保存され、暗黙に信頼できるものとなる。

 

複数の業界でこの強力なテクノロジーに期待されるメリットが4つ挙げられる

1. 透明性と監査可能性
チェーンに追加されたすべてのデータは不変であり、すべてのメンバーが見ることが出来る。(一部は、限られたメンバーしか見ることができない) 故にすべての取引が、すべてのネットワーク参加者が信頼できる永続的な記録として残る。

2. 信頼性
鎖のように繋がれているすべてのデータブロックは相互に接続され依存しており、基本的に改ざんは不可能である。この機能とすべての台帳記録が共有され、検証プロセスも分散されている事実から、すべての参加者がお互いに信頼し合える。

3. 仲介者を必要としないこと
分散型台帳技術が透明性と信頼性を合わせ持つことから、直接個人間での取引が可能になり、分散型台帳が決済代行会社のような従来の仲介業者に取って代わられる。

4. 自動化とスマートコントラクト
事前に設定された条件に基づき自動的に契約を履行するシステムとして定義されるスマートコントラクトを介すことで、分散型台帳は所定の条件が満たされたときに自律的に取引を行う。スマートコントラクトを分散型台帳上で行うことで、定期的な支払いを自動化することが出来る。特に約款が支払いを引き起こす条件として明確に定義される保険業界に応用可能である。

分散型台帳導入の成功の秘訣は、信頼できる関係者間の高度な連携体系を構築出来るか否かである。分散型台帳のようなネットワークの強みは、そのネットワークの参加者の数に依る。分散型台帳技術は、関係当事者(すなわち、再保険業者、ベンダー、規制当局、プロバイダー)間でのデジタル資産の統合と移転に大きく依存するような業界にとって有意義な技術である。」

次回は、「Super Secure: Distributed ledger technology in life and health insurance」の第2回を配信予定である。

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