モデルの行動――人工頭脳(AI)のアクチュアリーサイエンスへの応用 第2回
2020年4月30日
本記事は、アメリカのアクチュアリー学会(AAA)の機関紙Contingenciesの11月/12月号に掲載されている、「Model Behavior—Applications of Artificial Intelligence in Actuarial Science」という記事の翻訳である。この記事は3回に分けての配信予定であり、今回はその第2回である。
近年、アクチュアリーの間では、アクチュアリーサイエンスにおける人工頭脳(AI)の応用が話題になる機会が増えている。この記事では、具体的な応用事例を示しており、今後多くのアクチュアリー実務者が自ら応用分野を拡大していくことを推奨している。その意味で、非常に参考になる論文といえる。我が国のアクチュアリーも十分な研究をする必要があると考えられる。以下、「」内は引用。
「このHLEのモデリング技術は、AIの保険数理への応用と見ることができる。
このモデルは各個人のHLEのより正確な予測のために、さまざまなデータやアルゴリズムのソースを使っている為である。このAIの技術を、改良し、精錬することは可能だろうか。
もし我々がさまざまな生活習慣の相互作用の影響について、より正確な情報を持っていれば、もちろん可能である。
例えば、定期的に運動し、かつ健康的な食事を続けている人は、平均的な人々の
調整係数の積よりも、より大きな総調整係数効果を持っているだろう。
しかしながら入手可能な情報に基づき、さまざまな調整係数間の相互作用の影響度を評価
することは、非合理的であろう。そのため、”multiplicative approach”を使う必要がある。
HLEモデルへのAIの応用については、図1を参照のこと。
図2:退職財務計画(Retirement financial planning)へのAIの応用
退職財務計画(Retirement financial planning)へのAIの応用
上記の例より、保険数理における予測精度の改善にAIを応用することは、保険数理以外の
分野へ適用することと比べ、簡単ではないことが分かるであろう。
多くの保険数理でのモデリングは、保険数理的仮定を評価することに基づいており、予測精度改善にAIを用いるには、この保険数理的仮定にAI技術を応用することが求められる。
先のHLEモデルの例では、HLEはhealthy mortality rates(健康者の死亡率)、incidence of disability(就業不能発生確率)、disabled mortality rats(就業不能者の死亡率)という
3つの仮定の基準を調整することで測定される。
HLEを測定するに当たり、伝統的な統計的アプローチでは、healthy lives(健康状態における余命)のデータベースを基にして、これらの死亡までの余命をモデル化し、生存モデルへ適応させることにより行われる。保険数理的アプローチは、統計的推測やパラメータ推定の基本的原則のうちのいくらかを満足しないものの、個人の様々なライフスタイルの特徴をつかむ上で遥かに柔軟で適応性があるという点において、利点がある。
次に退職財務計画(Retirement financial planning)へのAIの応用について述べる。
洗練された退職財務計画モデルは、運用収益を予測するモンテカルロ技術と、疾病率及び死亡率を予測するマルコフ連鎖アルゴリズムを組み合わせることにより構築される。
この組み合わせた技術を使うことで、我々は退職者の消費最適水準を予測することができ、
それにより高いレベルの確実性で死亡前に貯蓄を使い果たしてしまうことを防止できる。
AIを消費レベルの予測改善に応用することは可能だろうか。以下のような2つの
アプローチが有る:
1. 退職者が健康であるか不健康であるかによって消費パターンを変更する為に、
HLEの計算に用いた調整係数を適用する。
2. カルマンフィルターと呼ばれるannual recalibration techniqueを用いて、前年度の
運用収益に基づき投資利益率の見込みを調整する。
これら両方のアプローチを用いることにより、消費の予定最適水準は毎年洗い替えられ、
それにより、退職者の健康状態やモデルにおける予定運用収益の再較正などの変化が都度反映される。上記2つのアプローチは退職プランにおける予測モデルを改善する為のAIの
ユニークな応用例であり、保険数理における非常に重要な応用例でもある。
Retirement financial planningへのAIの適用については、図2を参照のこと。
」
次回は、同記事「Model Behavior—Applications of Artificial Intelligence in Actuarial Science」の第3回を配信予定である。
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