「モデル化までの過程−現代のモデラーが価値を創造し、ビジネスにおける有効な意思決定を推進する方法 第4回」

2019年3月1日

アクチュアリー業務を行っていく上でモデルの使用は、ほぼあらゆる課題の計数的な解決に必須になっています。また、諸外国の内部モデルの規定などがソルベンシー要件の軽減につかわれるようなこともあり、モデリングは法令上も一層に重要なトピックになっている。当社では、このような観点から海外のモデリングに関する文献を翻訳し読者の皆様に引用して提供します。以下、「」内は引用

本記事は、American Academy of Actuariesの雑誌Contingenciesに記載されている記事「Model Behavior—How a modern modeler can add value and drive effective business decisions」の翻訳である。この記事は4回に分けての配信予定であり、その最終回である今回は、「Identify-and Mitigate-Limitations」と「Be Tenacious」の2節について配信する。

モデルの制限を認識し軽減せよ

 最も効果的なモデル化のプロセスは現実的なプロセスである。これは単に特定のモデルを設計する際の制限を現実的に理解することを意味する。モデリングの制限には主に2つのタイプがあり、創造的なモデル化の「ソリューション」によって修正可能なものと修正不可能なものである。修正不可能なものは会社のモデル化ガイドラインや、モデルや使われた仮定の規則、そして、実務基準のようなものである。前述のように、こうした基準はモデルの信頼性だけでなく統制を保つことにおいて重要なのである。いくつかの例外(例えば時間)を除き、ほぼ全ての制限はそうゆうふうに分類されるという理由だけで制限だとされている。

 制限としての時間は単独で言及する価値があるので以下で説明する。モデル化のプロジェクトは締め切りの中で成果物を仕上げていくため、「ソリューション」における設計、テスト、実装、確認にどれくらいの時間がかかるのか予想することが重要である。加えて、今現在かける時間と将来に取っておく時間とのトレードオフを考えることも重要である。例えば、ある「ソリューション」を開発するのには要求された開発期間よりも一週間長くかかるかもしれないが、それを使うことで四半期決算ごとに多くの時間を節約する場合がある。

 効率的なモデラーは、最終的なモデル化の「ソリューション」が最大限価値のあるものとなるように制限を限定する。完全に制限を排除することは困難であるが、それらを軽減することは可能である。例えばソフトウェアと時間の制限によってある種の計算が実行できないような場合、容認できうる近似値が使用される。制限を除外する際に考慮しなければならない重要な要素は、制限により妨げられた「ソリューション」の重要性と必要性である。もし「ソリューション」が必要ならば、制限の回避策が設計される必要がある。「ソリューション」が重要でない問題に対処するならば、制限をそのままにして無視できるであろう。

「役に立つ」以上のモデルを開発するには、過去に行われたこととは少し違うことをしてみたり、成功を収める前に何度か失敗したりすることだ。

 制限はしばしばマイナスであるとみなされるが、あらゆるモデル化のプロセスへの挑戦であるとみなされるべきである。制限がある状態で仕事をすることは私たちに創造性を与え、プロジェクトへの参加を促し、協力を促す。制限をしっかりと特定して、それが理解できたならば、無理に制限を軽減する必要はない。

粘り強くなる

難しいモデル化の問題に直面している時、モデラーが発揮できる最も価値のある性質の一つに「粘り強さ」がある。真に革新的な「ソリューション」が直ちに得られたり、厳格なテストなしに成功を収めたりすることはほとんどない。加えて、「ソリューション」が革新的なものであれば、他者を信頼させるためには信頼に足る量の裏付けと確信が必要である。これらの理由から、「ソリューション」を設計し、テストする際には系統的なアプローチを用いることが重要である。さらに、より重要なことは、新たな戦略と手順を適切に文章で記録することである。

良い「ソリューション」は、明確に定義された問題に対処し、細部を隈なく検討し、論理的な思考に準ずる。粘り強いモデラーであることの一部には、大きな観点からものを考えるための野心を持っていることと、小さな観点から対象を検査するための訓練を行なっていることがある。

金融サービス同様にインダストリーのモデリングは規制が厳しいため、今まで行ってきたようにデフォルト化することは簡単である。しかし粘り強いモデラーは、包括的な問題解決における規範と基本的な「ソリューション」に疑問を呈している。彼らは決して結果を当たり前のことと考えず、変更のあらゆる面と影響を理解することを目指している。彼らは理論と実践の間に論理的な関係性を見つけて、これらの関係に関して説得力のある主張を行うことができる。

 最後に、粘り強いモデラーであることは完璧なモデルや「ソリューション」を作るのに必ずしも必要なことではない。すべてのモデルは譲歩と妥協を必要とする。有用なモデルは正確性と信頼性がどれだけ必要とされているかということと同様にゴールと目的を決定することによって作られている。「役に立つ」以上のモデルを開発するには、過去に行われたこととは少し違うことをしてみたり、成功を収める前に何度か失敗したりすることだ。

チャレンジしてみることを恐れない精神が革新的な「ソリューション」を作り出している。保険数理分野でのモデル化における粘り強さには、「解は存在する」という信念によって困難に挑戦するための根気が含まれている。−それを見つけるのはモデル開発者の仕事だが−

Olyvia Leahy

MAAA(Model Aeronautical Association of Australia)、ASA(Associate of the Society of Actuaries)、ACIA(Associates of the Canadian Institute of Actuaries)所属。マサチューセッツ州ボストンに拠点を構えるジョンハンコックにおいて生命保険の価格決定に携わるアメリカの保険数理モデラー」

次回は、「Super secure: Distributed ledger technology in life and health insurance」の第1回を配信予定である。

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