人工頭脳の時代における再発明 第2回

2020年7月25日

本記事は、米国アクチュアリー会(SAO)の機関紙THE ActuaryのDec19Jan20に掲載されている、「Reinvent in the Age of AI(人工頭脳の時代における再発明)」という記事の翻訳である。この記事は3回に分けての配信予定であり、今回はその第2回である。

最近は、AI(人工頭脳)の進歩が著しい。この記事は、人口頭脳の過去から現在に至る発展の歴史を振り返り、最先端の技術が人間の社会に大きな影響を与えることを予測している。
保険の世界では健康保険のunderwritingの在り方が根底から変わることを示している。また、アクチュアリーの役割も大きく変貌していくので、自らを再発明する必要性があることを説いている。以下、「」内は引用。

「健康管理と長寿に対するAIの影響
精密医学がほぼ指数関数的な速度で進歩するにつれて、病気をより早期に診断し、実際にそのほとんどを予防することができるようになるであろう。アクチュアリーや医療専門家、データサイエンティスト(一部は人間、一部はAIベース)たちは、マイクロバイオーム(microbiome)と脳との(主に迷走神経を介する)相互作用を利用し、食事療法をカスタマイズすることで将来の病気を予防できるようになるはずだ。(誰もがDNAとマイクロバイオームの唯一の組み合わせを持っているため、非常に特定の個人として)我々は一人ひとりその病気に対する遺伝的もしくは環境的素因が備わっている。それらによって、すでに発症している病気を緩和もしくは排除することができ、身につけたり埋め込んだりすることが可能なモニターや薬品注入装置が治療のサポートをしてくれるようになるのだ。これにより、ほとんどの場合、外科医の必要性がなくなる。人々を治療するために体にメスを入れたり、皮膚を焼き切ったりする時代は、未来の人からすれば、無知な蛮行と見なされるに違いない。侵襲的な生検はトライコーダー(スタートレック製品のことで、Xprizeコンテストの一部としてすでに開発されているもの)へ置き換えられ、数年のうちに著しく普及するだろう。臨床研究では、犬が人の体内における癌の一部のにおいを嗅ぎ分けられることが示唆された。
嗅覚、視覚(可視スペクトルを超越したもの)、聴覚などの超感覚的な能力を備え、かつAIと融合したボットが、それぞれの感覚器から得られるすべてのデータを取入れ、人知を超えて物事を考える様を想像してほしい。

スマートフォンは、今日では至る所で目にするようになったが、その特徴(おそらくカメラ入力のために我々の視神経と通信できる機能)を複製した耳への埋込装置に置き換わっていき、いずれスマートフォン自体は過去の遺物となるだろう。その装置は我々の生命徴候を毎分何度もチェックし、現在の想像をはるかに超える帯域幅を介して無線で通信し、全世界的な翻訳者として機能するようになるのだ(現在入手可能な補聴器の中には、リアルタイムで27言語を翻訳する機能を有するものもある)。モノのインターネット(IoT) 、特に健康分野でのIoHTは、現時点ではほとんど想像できない方法で我々とAIの機械学習とを結びつけるだろう。
病気は過去のLaminar AI時代の遠い記憶となる。寿命はそれに伴って延びるだろう—しかし、それは単により長生きになるということではなく、生活の質までもより長く楽しむことができるということだ。生物医学老年学者のオーブリー・ド・グレイといった一部の寿命の専門家は、今後5年間でさらに5年間寿命を延ばすことができる医療の大躍進を目の当たりにすると予想している。そして、その次の5年間で、さらに10年間の質の高い生活のためのブレイクスルーを遂げるだろう。
今日生きる一部の人間はa-mortalsになる可能性がある。彼らは不死というわけではない。なぜなら彼らの頭上に建物が倒壊してきたら、血だまりができる(死亡する)からだ。しかしながら彼らが病気で亡くなることを恐れる必要はなくなるだろう。年金ビジネスのアクチュアリーは        彼らへの販売に特に警戒する必要がある。

しかしそれ以外にアクチュアリーがこの新しい世界について持つべき関心は何だろうか?今までにはない新しい方法や手段により、新しいやり方、技術、機器が急増し健康保険料に影響を及すことによって、健康保険のアクチュアリーは最初に市場性が高まるであろう。彼らアクチュアリーは、増加するデータを消防ホースからのみ込む方法や、それを現在の機能を超える予測モデリング技術へ適用させる方法を学ぶ必要がある。そういった手法を学ぶことで、新たなモデルが他のモデルより開発、洗練されていき、また機械学習が私たちの専門職全体に普及するようになり、より一層AIベースの自動化の開発に拍車をかけるだろう。馬の世話をする蹄鉄工が今日非常に少ないように、一部のアクチュアリーたちは完全に機械学習に取って代わられ、他のアクチュアリーの人々もニッチな世界へ追いやられるであろう。生保アクチュアリーは、人間がはるかに長生きし、病気や老化によって死亡しない人(a-mortals)もいるので、働く機会が徐々に減っていくのを目の当たりにするでしょう。またプライバシーが存在しなくなり、1984年のオーウェルの小説に登場するビッグブラザーの能力をはるかに超えた監視によって犯罪が直ちに暴露され、対処されるようになることで、暴力による死亡も非常に珍しいものになっていくだろう。

変化のペースは想像不可能
一部の読者は,これらすべての予測について、私が良く考えずに非現実的な空想を抱いていると考えるだろう。しかしながら、フューチャリストのピーター・ディアマンディス氏も言及しているように、「何かしらのアイデアが本当に大躍進につながるまで、それらは単なるばかげたアイデアとしか見られない。」
データ記憶容量の進歩の速度を例に挙げてみよう。1979年、私は最大16KのRAM容量のApple Ⅱのコンピュータを購入したが、Pascalでプログラムを組むに当たりもう少しRAMを必要としたため、追加で300ドル支払い、16Kの拡張回路基板を購入しなければならなかった。当時の価格では、1GBのストレージ容量(当時ハードディスクはまだ選択肢に無かった)は、18,000,000ドル以上の値段だった。今日では、1GBのストレージは0.02ドル未満で購入でき、これは当時のおよそ10億分の1の値段である。
(技術の)改良の速度には驚かされるものだ。
iPhoneが2007年に発売された当時、果たして誰が2018年11月までに22億台以上が販売されると想像しただろうか。(以降、Apple社は、販売台数を報告しない方針を決定した)。
私の住んでいる、ミズーリ州チェスターフィールドには、全米初の仮想病院(バーチャル・ケア・センター)がある。
2015年10月にMercyシステムによりその病院は開院した。このウェブサイト上では仮想病院に当番勤務している医師を確認できるが、この仮想病院には専門の医師が常駐しており、彼らが遠隔で患者をモニターしたり、手術室から遠く離れた場所から複雑な手術のガイドを行ったりすることができ、さらに本システムが擁する43の病院のノウハウ、専門的知見を時には数百マイル離れた場所にいる患者へと届けることもある。
ここ数年の驚くべき進歩を前に、私はドナルド・ラムズフェルド氏の有名な発言「知らないことを知らないこと、つまり、我々が知らないと認知していないこともある」について考えた。1884年、エドウィン・アボット氏は、2次元の平面世界を舞台とした革命的な著書「Flatland(フラットランド)」を出版した。我々(3次元世界の住人)が、弦理論における11次元、またはさらに高次元の存在を理解したり、視認したりすることが困難であることと同様、我々の住む3次元の世界から、とある球体が彼らの2次元の世界を訪れたとしても、2次元世界の住人たちはその存在を理解することも、視認することもできないであろう。」

次回は、同記事「Reinvent in the Age of AI(人工頭脳の時代における再発明)」の第3回を配信予定である。
注. 本記事の日本語著作権は株式会社ヨシダ・アンド・カンパニーに帰属しており直接のメール会員、当社の教育講座受講生以外の外部へのコピーまたは電子媒体での流出を禁じます。当法人は翻訳の正確性について一切の責任を負いません。
この記事を最後まで読まれたい方下記よりメール会員登録をお願いします。