人工頭脳の時代における再発明 第3回

2020年9月3日

本記事は、米国アクチュアリー会(SAO)の機関紙THE ActuaryのDec19Jan20に掲載されている、「Reinvent in the Age of AI(人工頭脳の時代における再発明)」という記事の翻訳である。この記事は3回に分けての配信予定であり、今回はその第3回である。
最近は、AI(人工頭脳)の進歩が著しい。この記事は、人口頭脳の過去から現在に至る発展の歴史を振り返り、最先端の技術が人間の社会に大きな影響を与えることを予測している。
保険の世界では健康保険のunderwritingの在り方が根底から変わることを示している。また、アクチュアリーの役割も大きく変貌していくので、自らを再発明する必要性があることを説いている。以下、「」内は引用。

「生き残るために必要なスキル
蹄鉄工、計算尺の製造者、石油エンジニアや他の大半の専門職と比べて、アクチュアリーが今後生き残っていくためには、昨日まで学んでいたスキルの多くを新しいスキルで強化していく必要があることは明白だ。多種多様な症例や症状に対し、知的な決定や判断を下す能力は、かつて専門家(医師、弁護士、アクチュアリーなど)を専門家たらしめる能力であり、彼らはその能力に応じて非常に大きな対価を受け取っていた。しかし今、我々はAIの機械学習のチャレンジを目撃し、それがしばしば彼らの専門技術を凌駕するのを目の当たりにしている。将来、我々は一人で複数の仕事をこなすスキルが必要となってくるであろう。一方看護師は、ほとんどの医師の仕事が自動化された後も需要が続くだろうと考えられる。熟練した創造性豊かな専業主婦は、サラリーマンの夫よりもはるかに多くのお金を稼ぐだろう。身体測定結果、健康状態の履歴、投資収益率、税法といった複数の情報から保険料や責任準備金の予測を行うだけでは不十分である。AIの機械学習はそれらをより正確に、より速く、より安価に行うことができるからだ。(高精度-迅速さ-安価というのは強力な組み合わせである)。AIの機械学習と競うには、対人関係のスキルを向上させる必要があるかもしれない。
保険商品も同様に変化させていく必要がある。例えば事故やうつ病、アバター、バーチャルリアリティ、自動運転車の賠償責任保険、アンドロイドやロボット犬の交換保険、ナノボットのセンサー、人々が働いたときに貯めた貯蓄よりも長生きするにつれ生じるインフレによる崩壊、ソーラーパネルや風力タービンまたは地熱ヒートポンプの稼働中断、不安、などの補償について新たなニーズが出てくるかもしれない。
             ああああ

AIの機械学習は良かれ悪かれ強力なツールとなり得る。
それらのツールを習得し、専門性を高め、
人類に貢献し、世界をより良い場所にし続けよう。

a-mortalsの人々が心血管疾患や癌で死ぬことがなくなるにつれ、偶発的な死亡に対する保険が第一に必要になってくるだろう。彼らのうちのいくらかは(今日の一部の命知らずな10代のドライバーたちがそうであるように)自身を死なないと考えるようになり、本来不要なリスクを負うことになるであろう。また、他の惑星の植民地化により、新しいタイプの偶発的な死のリスクと価格設定方法が提起されるようになるだろう。
悲しいことに、自殺は生命保険契約の除外規定ではなくなり、一つの保険商品になるであろう。自殺による死亡者の数はすでに戦争と殺人の合計死亡者数を上回っている。
目まぐるしい変化の速度が人々を飲み込んでいく中、1961年の舞台でのミュージカルの歌詞が思い浮かぶ。「世界を止めろ、俺は降りたい」。自殺保険のプライシングは、アクチュアリーのモラルハザードに対する従来の考え方を変えさせ、アクチュアリーは危険な精神的不安を検出し、それに応じて介入機関に警告するナノボットセンサーの組み込みについて生物工学者や心理学者と連携するようになるだろう。

健康面では、倦怠感や現実世界から解放されたいという思いが保険の主要なリスクになるだろう。肉体的生活のありふれた現実よりも仮想現実体験により魅力を感じる人々が出てくるかもしれない。そういった人々は当然のことながら、自分らが多くの時間を投資してきた自身のアバターが正常に動作しなくなることに対して保険をかけたくなることだろう。

アクチュアリーは、数十年にわたり最高の仕事の1つであり続けてきた。良い時期は終わろうとしているのだろうか? AIの機械学習は悪い時期への門を開けてしまう突破口となってしまうのだろうか?必ずしもそうではない!

私たちはコモディティ化を避けるべく自分自身を再発明することによって生き残ることができるのだ。予測分析能力は将来においても重要なスキルセットとなるだろう。しかしそのスキルだけではなく、他のスキルを伴う必要がある。我々は倫理的な行動に対する評判をテコ入れし、コミュニケーションスキルを向上させていくことができる。また我々は、ビジネスの知識、分析能力、家族に対する思いやりなどを組み合わせることによって、リスク管理に対し、より包括的なアプローチを採用することができる。

先人たちは馬がより速いランナーであることを発見し、それに乗る術を学んだ。また、火が強力な熱源であることを発見し、それを制御する術を学んだ。AIの機械学習は、良かれ悪かれ強力なツールとなり得る。それらのツールを習得し、専門性を高め、人類に貢献し、世界をより良い場所にし続けよう。そして我々自身を再発明しよう。」

次回は、英国アクチュアリー会の「IFRS17号に関するChallenges and opportunity(チャッレンジと機会)」を配信予定である。
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