人工頭脳の時代における再発明 第1回

2020年7月7日

本記事は、米国アクチュアリー会(SAO)の機関紙THE ActuaryのDec19Jan20に掲載されている、「Reinvent in the Age of AI(人工頭脳の時代における再発明)」という記事の翻訳である。この記事は3回に分けての配信予定である。

最近は、AI(人工頭脳)の進歩が著しい。この記事は、人口頭脳の過去から現在に至る発展の歴史を振り返り、最先端の技術が人間の社会に大きな影響を与えることを予測している。
保険の世界では健康保険のunderwritingの在り方が根底から変わることを示している。また、アクチュアリーの役割も大きく変貌していくので、自らを再発明する必要性があることを説いている。以下、「」内は引用。

「特集記事

 人工頭脳の時代における再発明
新しい科学技術は、人工知能と機械学習という2つの分野の変化の中で、アクチュアリーが進化していかなければならないという事実を指摘している。

デイヴ・スネル  2019年12月 / 2020年1月
写真:ファナッティック スタジオ/ アルミー ストック フォト

私は熱心なフューチャリストとして、科学技術の潜在的な影響についての考えを共有する機会を楽しんでいる。
しかしアクチュアリーとして、最初に私の予測について述べておかなければならない。
それは、この記事で私が記載していることの多くは実際に実現するであろうが、私の予測のうちのいくらかは誤っているだろうということだ。残念ながら、こういった技術の潜在的な影響に対して適用できる信頼区間や有意義な確率について、私も他の誰も持ち合わせてはいない。多くの人が言っているように、「予測というものは難しく、特に未来についての予測は非常に難しい」。

本記事では広く、人工知能(AI)、特に機械学習(ML)の分野における進歩の中での、いくつかの歴史的展望について触れ、次にこれらの進歩の、健康管理や長寿への応用についてのいくつかの予測モデリングの視野について触れていく。

人 対 AI
AIは数十年の歴史を持っているが、1980年代初頭の(第2次)AIブームの後、失望の期間が続いた。手動で記号化されたルールツリーは、小規模でシンプルなアプリケーションに対して有望であると思われたが、複雑さが増すとうまく対応しなかった。

 私は元々建築家であり、新契約医務査定エキスパートシステムの共同開発者である。このシステムは、複数の言語に対応し、複数の国で1,000億ドルを超える生命保険アプリケーションを評価してきた。現在では100人以上のスタッフがそれを維持および強化している。 当時、変化するニーズに対応する様、動的に自己補正をするというアイデアは、AIの能力を超えているように思われていた。
その後1997年に、戦略的論理における、人間の機械に対する包括的優位性の信念を揺るがす出来事が起きた。IBMのプログラムであるDeep Blueが、チェスでガルリ・カスパロフを破ったのだ。彼は当時世界チャンピオンであったが、確かにプログラムに敗北したのである。
Alのコミュニティの興奮は明白なものだったが、懐疑論者たちは、チェスは単なるゲームであり、非常に論理的なルールを持つものである点を指摘した。
彼らは、真の知性には、曖昧さや洒落などと言った要素を含む、英語などの人間の言語を理解する能力が求められると主張した。2007年には、別のIBMのプログラムであるWatsonが(アメリカのクイズ番組の)“Jeopardy!”で、最も優れたプレイヤーを打ち負かした。AIが言語の壁を破ったのである。しかしながら、ワトソンは自分が勝利したということを認識するようプログラムされてすらいなかった。

2017年まで進むと、AIプログラムは、チェスよりもはるかに複雑な戦略ゲームである囲碁の世界18回チャンピオンを破った。比較すると、チェスのプレイヤーはゲーム中どの場所においても動かせる手が20手程度であるのに対し、囲碁では常に200手ほどの手があり、手番が進むにつれて、考えられる盤面の可能性が膨大になっていく。しかし依然として懐疑論者たちは、Alpha Go(AIプログラム)はプロの棋士がさす何千ものゲームの手を入力することによってトレーニングされたのだと指摘した。しかし1年後、状況は一変した。  Alpha Go Zeroが登場し、Alpha Goを確かに打ち負かし、議論の余地のない囲碁のチャンピオンになったのだ。Alpha Go Zeroのトレーニングに、人間のゲームの戦歴は含まれていなかった。プログラムには囲碁のルールのみが与えられ、あとは42時間、自分自身と対戦することで学習したのである。

人間の知識という障害に邪魔されることなく、AIの機械学習はより速く、より効率的に学ぶことができるようになったのだ。

AIの限界
一年後、汎用戦略ゲームプレイヤーであるAIのAlpha Zeroは、たった4時間のセルフトレーニングのみで、世界一のチェスのプレイヤーとなった。それでも依然として、否定論者やAIの専門家でさえも、AIはすべて、いわゆる「弱いAI」すなわち「特化型人工知能」と呼ばれる単なるアプリケーション(プログラム)であると指摘している。汎用性があるどころか,とても限定的であるとまで言われている。汎用人工知能(強いAI)の実現には何十年もの時間を要すると言う専門家もいる。例えばAlpha Zeroは、チェスをプレイすることはできるものの、どのようにプレイするかを我々に教えることはできない。ワトソン(IBMが開発した質問応答システム)は、ウィキペディアや他の蓄積されたデータベースに依存しなければならず、人間の幼児レベルの推察力、パターンマッチング能力、創造力も有してはいなかった。数字や言葉の習熟は、かつては人間の能力のとても小さな部分集合であると考えられており、また、顔の認証や抽象的なアートワークをつくり出すこともAIには達成不可能とされていたが、今はそうではない。

現在、AIのCNNs(畳み込みニューラルネットワーク)は、空港での潜在的なテロリストを発見したり、X線での癌腫瘍を検出するために日常的に使われている。また、AIのGANs(敵対的生成ネットワーク)により描かれた絵画が、美術品のオークションで数十万ドルの値がつけられた。現代のスマートフォンは、初めて月面着陸した宇宙船に搭載されていたコンピュータの数百万倍ものストレージと処理能力を有しており、通話しかすることしかできなかったレンガの塊から所有者をサポートしてくれる携帯端末へと進化を遂げた。このスマートフォンを使えば、外国の街中で複雑な道を案内してもらうこと、アポイントをとること、GEO TRACKINGにより生活を記録すること、大陸を超えて写真や動画を共有すること、長期間忘れていた電話番号を記憶しておいてもらえることなどが可能になった。

2019年8月、多人数参加型の戦略やブラフを必要とする6人制テキサスホールデムポーカーにおいて、プログラムが有名な人間の熟練者を破ったことで、さらにAIの進歩が報じられた。我々はまだ、より汎用なAIの実現には至っていない。しかしながら、その実現が遠い未来の話であるとは私は思わない。私の考えでは、いま我々はいわゆるLaminar AIという過渡期に突入している。互いにラミネートされた炭素繊維の薄層は、同程度の幅の鋼鉄よりもはるかに強度が高い。6層構造を持つ我々人間の大脳新皮質は、ニューロン間の発火時間がおよそ5ミリ秒と遅いにもかかわらず、驚くべきパターン認識を非常に素早く行うことができる。同様に、そのようなラミネーション、つまり、多くの特化型AI(弱いAI)の寄せ集め(積層構造)によって、ますます汎用的なAIへの進歩が加速するであろうと私は予測している。」

次回は、同記事「Reinvent in the Age of AI(人工頭脳の時代における再発明)」の第2回を配信予定である。

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