リスクニュートラル評価のよくある誤解 第2回

2019年11月6日

 
本記事は、Society of Actuariesの雑誌The Financial Reporterに記載されている記事「Common Misunderstandings of Risk-neutral Valuation 」の翻訳である。この記事は3回に分けての配信予定であり、今回はその第2回である。
 
近年、アクチュアリーの間では、市場整合的エンベディッド・バリュー(MCEV)や国際財務報告基準17号などで、リスク中立評価が使用される場面が多くなっているが、
その理論的根拠を十分に理解されずに実務で使用されるていることがあるようである。本記事においては、そのような誤った理解への警告を発しており、我が国のアクチュアリーも十分な注意をする必要があると考えられる。以下、「」内は引用
 
このような誤解が生まれたかもしれない理由の一つには、多くの「リアルワールド」のシナリオジェネレーターが市場整合的ではないということがある。市場整合的であるためには、シナリオの開始日において、ジェネレーターは現在の市場状況に調整される必要がある。多くのリアルワールドのジェネレーターは評価には使用されないため、自己資本の測定には用いられるが、それが再調整されることは稀である。その使用においては、評価において最も重要な中央のシナリオではなく、外れ値のシナリオに焦点があてられるため、中央のシナリオのキャリブレーションは重要ではない。
 
 それでも、リアルワールドのシナリオジェネレーターは、各評価日に調整されれば、市場整合的になり得る。現在の市場状況に関する以下の3つの側面をキャリブレーションに含める必要がある。
  • a. タームプレミアムを取り除いたイールドカーブに基づく将来の短期金利の予想経路
  • b. デリバティブの市場価格に基づく金利のボラティリティ
  • c. リスクの市場価格
 
 リスクの市場価格は直接観察可能ではなく、タームプレミアムでもない。それらは、ヒストリカルデータと現在の価格の組み合わせを用いることで、間接的に推測できる。リスク中立なキャリブレーションでは、リスクの市場価格とタームプレミアムをゼロとして扱い、補填するための予想経路とボラティリティを調整することで、この問題を回避する。これを正当化する理論は複雑だが、基本的な考え方は、リスクの市場価格が、リスク中立シナリオにおける将来の金利の調整された経路とボラティリティにおいては非明示的になるということである。
 
 リアルワールドのキャリブレーションは、リスクの市場価格を明示的に扱う必要があり、それゆえ、より判断の対象となるため、批判されることがある。これは、リスク中立評価には判断が含まれないという誤解に基づいており、このことは次で説明する。
 
(「市場整合性」と「リスク中立」という用語は同じことを意味するというよくある誤解がある。)
 
誤解4:リスク中立シナリオのキャリブレーションは観測に基づくものであり、判断はほとんど不要である
 
 リスク中立シナリオのキャリブレーションは、観測データにしっかりと根付いている。しかし、依然として重要な判断が含まれる。
 
 最初の判断は、調整される基礎にある確率過程の選択である。金利については、1ファクター・モデル、2ファクター・モデル、確率的ボラティリティモデル、レジームスイッチングモデル、ゼロ金利制約モデルなどがある。これらのモデルにおける確率的ショックには、正規分布や対数正規分布、あるいは他の分布が使用できる。確率過程の選択は、長引く低金利の頻度や期間の長さといった、生成されるシナリオセットの特性に影響する。これらの特性は、保険契約、特に最低予定利率保証を付した保険契約の評価に間違いなく影響を与える得る。
 
 2番目の判断は、確率的シナリオを生成する際に使用するボラティリティの選択である。キャリブレーションは、ボラティリティサーフェス、つまり、行使価格と満期によって変動するインプライドボラティリティの範囲、を提供する。このインプライドボラティリティの範囲は、モデルが完全には適合しないことを示すが、その点はしばしば無視される。確率的シナリオを生成する際、ボラティリティは各タイムステップにおいて1つの値のみを持つことができ、各行使価格や満期に対して異なる値を持つことはできないため、使用するボラティリティの選択には判断が必要である。
 
 3番目の判断は、リスクフリーレートの測定である。米国債の流動性は非常に高いため、流動性の低い保険契約の評価に対しては、観測された米国債のイールドカーブは不適切であると一般に受け入れられている。流動性の低い証券は流動性の高い証券よりも利回りが高いため、「非流動的でデフォルトのない」イールドカーブを使用することが推奨される。そのようなイールドカーブは、米国債に非流動性の調整を加えたものである。非流動性の調整には、マッチング調整といった他の名前が付けられることもある。名前が何であれ、調整の大きさを設定するには判断が必要であり、さまざまな種類の保険契約を評価する際に行われる調整の適切な大きさについては、大きな議論がある。
 
 ここに挙げられている3つの判断は、長期の保険契約のリスク中立評価の結果に大きく影響し得る。私が思うに、リスク中立アプローチにおけるこれらの判断は、市場整合的な評価に対するリアルワールドのアプローチで必要とされる判断と同じくらい重要である。
 
次回は、同記事「Common Misunderstandings of Risk-neutral Valuation 」の第3回を配信予定である。
 
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