モデルの行動――人工頭脳(AI)のアクチュアリーサイエンスへの応用 第1回

2020年4月15日

本記事は、アメリカのアクチュアリー学会(AAA)の機関紙Contingenciesの11月/12月号に掲載されている、「Model Behavior—Applications of Artificial Intelligence in Actuarial Science」という記事の翻訳である。この記事は3回に分けての配信予定である。

近年、アクチュアリーの間では、アクチュアリーサイエンスにおける人工頭脳(AI)の応用が話題になる機会が増えている。この記事では、具体的な応用事例を示しており、今後多くのアクチュアリー実務者が自ら応用分野を拡大していくことを推奨している。その意味で、非常に参考になる論文といえる。我が国のアクチュアリーも十分な研究をする必要があると考えられる。以下、「」内は引用。

「モデル挙動保険数理分野における人工知能の応用

By Jay Vadiveloo
私は最近、Ajay Agrawal博士の人工知能(AI)に関するセミナーに参加した。私は、Agrawal博士の著書、『Prediction Machines : The Simple Economics of ArtificialIntelligence (Harvard Business Review Press. 2018)』は、AIの成長分野、および我々がアクチュリーとして働く上でAIがどのような影響を我々の仕事に及ぼすか、について、何らかの知見を得たいと考えているアクチュアリーにとって、必読書であると考える。

AIの実務上の定義
Agrawal博士は、基本的および実務上のAIの定義を次のように与えている;
「予測の精度を改善するために開発されたあらゆるツール、技術、アルゴリズムの総和である。」
この定義に依るならば、私はAIを、「一般化線形モデルや機械学習、神経回路網、決定木などといった、様々なデータ分析ツールを包括する傘である」とみなしたい。
また、AIの本来の目的が予測精度の改善であることから、保険数理で予測精度を改善する為のあらゆる技術は、保険数理分野へのAIの応用と見ることができる。

 図1:HLEモデルへのAIの応用

図1

保険数理のモデリングに関する新しい考え方
保険数理における予測改善にAIがどのように寄与するかを理解するにあたり、保険数理のモデリングのユニークな一面を知ることや、伝統的な統計モデルとの違いについて知ることは、重要である。
技術的ツールやR言語などのコンピュータプログラミング技術を使った、11年に及ぶ保険数理のリサーチ業務の中で、私はそれまで知らなかった、他分野で使われている、新しく革新的なアプローチを発見した。
これらのアプローチは、building block approach(既に存在し確立されている統計的モデリング手法を別の問題解決に応用する方法)には準拠していないものの、
こういったアプローチを保険数理のモデリングに応用することで、これらの技術や
アルゴリズムのうちのいくらかは、AIを応用した形と見ることができる。

 

健康者の平均余命モデルへのAIの応用
一例を取り上げたい。
私はここ数年、健康者の平均余命(Healthy Life Expectancy; HLE)を測定するモデルを確立することを目的とした
チームと働いていた。
当然このモデルは、就業不能者の平均余命(Unhealthy Life Expectancy ;ULE)および平均余命(LE)も測定する。
(LE = HLE + ULE)
伝統的な統計モデルと異なり、HLEモデルは1つのデータソースのみからでは展開できない。多くの保険数理モデルがそうであるように、保険数理上の基本的な仮定を置き、その仮定を評価するために適したデータソースをさがす。

HLEモデルにおいて我々が必要とする主要な保険数理的仮定は、
・healthy mortality rates(健康者の死亡率)
・incidence of disability(就業不能発生確率)
・disabled mortality rats(就業不能者の死亡率)
である。
健康者の死亡率に関しては、アクチュアリー協会(SOA)のValuation Basic Tablesによる
初年度の選択死亡率(Select mortality rates)を用い、就業不能発生確率については、
SOAから発行されているLong-term Care ratesを用い、就業不能者の死亡率については、
SOA RP 2014の就業不能者死亡率を用いている。
これらの保険数理上の仮定は、HLEモデルを展開する上で使用される基準率となる。
AIの技術は、個人のライフスタイルの特性や、健康、食事などの要素を反映するために、
HLEを調整することに用いられる。

HLEの各々の調整係数は、異なるデータソースによる独立した文献レビューを必要とした。
例えば調査により、健康的な食事を続けていた人が、そうでない人より20%長く生存したという結果が得られたとする。

この20%という数値は、基になる保険数理上の仮定に適用される調整係数と言い換えることができる。各調整係数を互いに単に掛け合わせることで、個々人の総調整係数が算出
される。」

次回は、同記事「Model Behavior—Applications of Artificial Intelligence in Actuarial Science」の第2回を配信予定である。

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